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インドの大気汚染は危険?|デリーの数字はバンガロールの数字ではない

「空気は大丈夫なの?」— インド留学を切り出したとき、最初に返ってくる言葉です。その心配は半分正しく、半分は場所を間違えています。デリーの数字と、私たちが留学先にしているバンガロールは異なります。

最終更新日: 2026-09-22

SUMMARY

デリーの大気汚染は住民の寿命を8.2年縮めています

シカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)が2025年に公表した推計で、一つ前の版では11.9年でした。在インド日本大使館の医務官は、2024年11月のデリーでPM2.5の日平均1,185μg/m³を報告しました。WHO指針値の200倍以上です。一方、同じ2025-26年の冬、バンガロールのPM2.5平均は39μg/m³で、デリー(163)の約4分の1でした。デリーでは冬の約5か月間、活動規制が続き、日本企業はデリー駐在員に月12万円のハードシップ手当を払っています。バンガロールも「きれい」ではありません。それでも、留学の期間と目的で見れば、バンガロールの空気は問題になりません。規制も休校も起きず、普通に外に出て暮らせます。だから私たちは、留学先にバンガロールを推奨しています。

メリット

  • 2025-26年冬のバンガロールのPM2.5平均は39μg/m³。デリー(163)の4分の1で、インドの国内基準(40)とほぼ同じ
  • デリーのような活動規制・休校・出社制限が起きる水準ではなく、対策すれば普通に暮らせる
  • 複数台の空気清浄機や窓の目張りは不要。N95マスクを数枚持っていけば足りる
  • 乾季(11〜2月ごろ)に上がる傾向があり、雨季(6〜9月)はさらに下がる

デメリット・注意点

  • 39μg/m³は東京(9.0)の4倍、WHO指針(5)の8倍。「南インドは空気がきれい」ではない
  • バンガロールのPM2.5は25年で2倍(13.1→26.2)。乾季(11〜2月ごろ)は上がる
  • 喘息やアレルギー性鼻炎など呼吸器の持病がある方は、この水準でも症状が出ることがある。渡航前に主治医へ
  • デリーの冬(2025-26年は10月14日〜3月16日)は活動規制で学校がハイブリッド授業になり、インドにいるのにリモート学習になる。外に出られないことが留学には最大の支障

「インドに留学したい」と親に切り出したとき、最初に返ってくる言葉のひとつが「空気は大丈夫なの?」です。ニュースで見る、白くかすんだデリーの街。マスクをして歩く人たち。あの映像が「インド全体」の印象になっています。

その心配は半分正しく、半分は場所を間違えています。デリーの大気汚染は、世界の首都のなかで最悪の水準です。これは事実です。一方で、私たちが留学先にしているバンガロールは、同じインドでもPM2.5がデリーの4分の1以下です。

この記事では、「寿命が8年縮む」という調査が何を言っているのか、日本大使館の医務官がどんな数字を出しているのか、都市ごとにどれだけ違うのか、そして日本企業がデリー駐在員にいくら払っているのかを説明します。

数字の読み方について

この記事のPM2.5はすべて μg/m³(マイクログラム毎立方メートル)です。WHOの指針値は年平均5、インドの国内基準は40、日本の環境基準は15です。数字の横に「WHO指針の何倍」を添えているのは、この3つの基準がまったく違う高さにあるためです。

深刻なのは「インド」ではなく「北インドの冬」です

インドの大気汚染に関する数字のほとんどは、デリーとその周辺(グルガオン、ノイダ、ガジアバード)で、10月から2月に測られたものです。この地域は内陸の平野で、冬になると周辺の州で農地の刈り株を燃やす煙と、暖房や交通の排気が、風の弱い冷えた空気の下に溜まります。

同じ時期に、南インドのバンガロールでは別のことが起きています。2025-26年の冬、デリーのPM2.5平均が163μg/m³だったとき、バンガロールは39μg/m³でした。インドの国内基準(40)とほぼ同じで、デリーの4分の1です。

デリーの PM2.5 平均(2025-26年冬・μg/m³)
163
バンガロールの PM2.5 平均(2025-26年冬・μg/m³)
39

だからバンガロールなら何もしなくていい、という話ではありません。39という数字は東京(9.0)の4倍で、WHO指針の8倍です。ただ、「インドの空気」をひとくくりにして留学をやめるのは、デリーの数字でバンガロールを判断していることになります。私たちが留学先をバンガロールに絞っている理由の一つが、この差です。

インドの大気汚染は、寿命を10年近く縮める可能性があります

「8年」という数字の出どころ

「デリーの大気汚染は寿命を8年縮める」という見出しは、シカゴ大学エネルギー政策研究所(EPIC)が毎年出しているAir Quality Life Index(AQLI)が出どころです。

最新の2025年版(2025年8月28日公開、2023年の観測データを使用)では、デリー首都圏の住民は大気汚染によって平均8.2年の寿命を失っているとされています。デリーの年平均PM2.5は88.4μg/m³で、WHO指針値の17倍以上です。インド全体の平均は41μg/m³で、寿命への影響は3.5年でした。

8.2年

デリー首都圏の住民が大気汚染で失う平均寿命(AQLI 2025年版)

一つ前の2023年版では、デリーの数字は11.9年でした。年によって8年から12年のあいだで動いているため、この記事の見出しでは「10年近く」としています。日本の記事で「12年」「10年」「8年」と数字がばらついているのは、どの年の版を引用したかの違いです。

この数字を読むときの2つの注意

一つ目。この推計は「今の濃度の空気を、生まれてから一生吸い続けた場合」の数字です。デリーに1か月いると寿命が縮む、という意味ではありません。短期の滞在にそのまま当てはめられる数字ではありません。

二つ目。比較の基準が「WHO指針値の5μg/m³まで下がった場合」です。インドの国内基準(40)を基準にすると、デリーの数字は8.2年ではなく4.7年になります。同じ報告書に2つの数字があるので、どちらを引用するかで印象が大きく変わります。

それでも、この数字を軽く見るべきではないと私たちは考えています。推計の根拠になった研究では、PM2.5が10μg/m³上がるごとに寿命が約1年短くなるという関係が使われています。デリーの冬の163μg/m³という数字は、この関係を当てはめると、住み続けた場合に十数年分の差になります。一生住むわけではない留学生にとっても、「そういう場所である」ことを知ったうえで行き先を選ぶ材料にはなります。

大使館の医務官が示した数字

室内で空気清浄機を回しても「Very Unhealthy」

在インド日本国大使館には医務官がいて、在留邦人向けに健康情報を発信しています。2024年11月29日に行われた講演の資料が公開されており、その内容が日本語で読める資料のなかでいちばん具体的です。

この資料によると、2024年11月中旬のデリーでは屋外のAQI(大気質指数)が650〜1,100超を複数日記録し、PM2.5の日平均は最悪時で1,185μg/m³に達しました。WHO指針値(5)の200倍以上、日本の環境基準(15)の80倍近い数字です。

1,185μg/m³

2024年11月のデリーで記録された PM2.5 の日平均(最悪時)。WHO 指針値の200倍以上

資料でいちばん目を引くのは、大使館の室内で空気清浄機を使っていても、AQIが「Very Unhealthy」(非常に不健康)のレベルだったという記述です。「室内にいれば大丈夫」という前提が、デリーの冬には成り立ちません。

短期的な症状として挙げられているのは、目の刺激、頭痛、咳や痰、喉の痛み、手足のしびれです。長期的な影響として、慢性の呼吸器疾患、心血管疾患、肺がん、低体重児出産が並んでいます。医務官の資料は、グルガオンに住み続けた場合の寿命短縮を「11.2年の可能性」としていて、先ほどのAQLIの数字と整合しています。

医務官が勧める対策は、住む場所の選び方まで含みます

同じ資料で在留邦人に勧められている対策は、次のとおりです。

住宅の選び方まで踏み込んでいるのは、駐在員向けの資料ならではです。別の大使館資料では、マスクは「PFE(微粒子ろ過効率)99%以上」のものを選び、顔との隙間があると捕集率が31%まで落ちる、という注意もあります。

これが、日本政府が自国民に対してデリーで勧めている暮らし方です。ここまで読むと「やはりインドは無理」と感じるかもしれません。次の章で、この数字がバンガロールではどうなるかを見ます。

デリーとバンガロールの比較|都市別のPM2.5一覧

2025年10月から2026年2月までの冬、インドの主要都市のPM2.5平均値です。データはインド中央汚染管理委員会(CPCB)の観測局をCREA(エネルギー・クリーンエア研究センター)が集計したもので、比較のため東京の年平均を最下段に置きました。

都市2025-26年冬の平均PM2.5WHO指針(5)の倍率
ガジアバード(デリー近郊)17234倍
ノイダ(デリー近郊)16633倍
デリー16333倍
グルガオン(デリー近郊)13828倍
コルカタ7816倍
ムンバイ4810倍
チェンナイ449倍
バンガロール398倍
東京(2024年度・年平均)9.02倍

出典: Winter Pollution Spiked Across India in 2025-26 — The Wire(2026年3月8日、CREA分析)Winter 2025-26 ambient air quality snapshot for India — CREA(2026年3月)(グルガオンの値)、2024年度 大気汚染状況の測定結果 — 東京都(2025年9月2日)。単位はμg/m³。倍率は小数点以下を四捨五入。

一つ前の冬(2024年10月〜2025年1月、CSE集計)も傾向は同じで、デリー175に対してバンガロールは37でした。この冬のデリーのピークは11月18日の602μg/m³、バンガロールのピークは67μg/m³です。デリーの「悪い日」とバンガロールの「悪い日」のあいだにも、10倍の差があります

年平均で見ても構図は変わりません。AQLIが使った2023年の数字では、デリーの88.4に対してバンガロールは26.2でした。この冬の数字と合わせて、私たちは「バンガロールはデリーの4分の1」と説明しています。

バンガロールも「きれい」ではありません

39という数字を東京の9.0と並べると、4倍です。バンガロールのPM2.5は1998年の13.1から2023年の26.2へ、25年で2倍になりました。AQLIの推計では、バンガロールに住み続けた場合の寿命への影響は2年あまりです。「南インドは空気がきれい」と言い切るサイトを見かけますが、それは違います。

正確に言えば、「バンガロールは、デリーのような規制や休校が起きるレベルではなく、対策すれば普通に暮らせるレベル」です。デリーで大使館が勧める「複数台の空気清浄機と目張り」は、バンガロールでは必要ありません。一方で、大通り沿いを長時間歩く日や、乾季の埃っぽい日にマスクがあると楽なのは事実です。

大気汚染で生活と仕事が止まり、学校も休校になります

寿命の話は遠い未来のことに聞こえます。留学生や保護者にとって切実なのは、「滞在中に生活が止まるかどうか」です。デリーでは止まります。

4段階の規制(GRAP)

デリー首都圏には、AQIに応じて活動を制限する「段階的対応行動計画(GRAP)」があります。

  1. ステージ1AQI 201〜300

    建設現場の粉じん対策

  2. ステージ2AQI 301〜400

    ディーゼル発電機の使用規制

  3. ステージ3AQI 401〜450

    建設工事の原則停止

  4. ステージ4AQI 451以上

    トラックの流入禁止と学校の閉鎖(州政府判断)

日系の製造業では、停電対策として敷地内に置いていたディーゼル発電機がステージ2以上で使えなくなり、ガス併用型への改造や太陽光発電の導入を迫られた例があります。大気汚染は、駐在員の健康だけでなく、工場の稼働そのものに影響しています。

2025-26年の冬は、10月14日から3月16日まで

2025-26年のシーズンでは、GRAPが2025年10月14日に発動され、全面解除は2026年3月16日でした。約5か月です。その前のシーズン(2024年10月〜2025年5月)は約6か月でした。1年の半分近く、何らかの規制下にあるということです。

2025年12月13日にはAQIが450を超えてステージ4に入りました。学校はハイブリッド授業への移行を求められ、12月17日にはデリー政府が民間企業に対して出社を最大50%までに抑え、時差出勤と車通勤の抑制を要請しています。ガス車・電気自動車以外のトラックはデリーに入れず、公共・医療施設以外の建設は止まりました。

留学の途中でこれが起きると、語学学校の授業がオンラインになり、外出を控えるよう言われ、移動手段が減ります。「留学に来たのに部屋から出られない」という状況が、デリーでは毎年、数週間から数か月の単位で起こります。

日本人学校の対応

ニューデリー日本人学校では、大使館の資料によると、全教室に空気清浄機を配備し、AQIの値に応じて児童・生徒の屋外活動を制限しています。AQI 151〜200で屋外活動を控え、201〜300では体育を屋外で行わない、という基準です。

つまり、日本の子どもがデリーで学校に通うには、「教室に空気清浄機がある」ことが前提になっています。AQIの算出方法は国によって異なりますが、バンガロールの冬のピーク(PM2.5で67μg/m³)でも、体育を屋外で行わない段階(201〜300)には届きません。屋外活動を控える段階(151〜200)に入る日が、乾季にあるかどうか、という水準です。

会社から出る手当|企業はデリーの空気に月12万円の値札を付けています

大気汚染がどれだけ厳しいかを、企業がお金でどう評価しているかを見ると、数字に実感が伴います。

EY税理士法人が2025年1〜3月に245社を対象に行った調査では、ニューデリー赴任者のハードシップ手当は月額12万円(中央値)で、調査対象の都市のなかで最も高い水準でした。

赴任先ハードシップ手当(月額・中央値)
ニューデリー12万円
ジャカルタ7万5,000円
マニラ6万8,000円
ハノイ5万4,500円
バンコク・北京3万5,000円

出典: EY税理士法人「海外赴任者に関する給与・手当の実態調査」(2025年、245社)。海外赴任者の海外勤務手当、ハードシップ手当はニューデリー赴任で12万円 — トラベルボイス(2025年8月12日、EY調査)より。

バンコクや北京の3倍以上です。この手当は海外勤務手当(課長クラスで中央値14万2,000円)とは別に支払われ、住宅の家賃や運転手付きの車も会社負担が一般的です。デリーの駐在員向け物件は月37万〜60万円の家賃という例が公開されています。日本企業は、デリーを「それだけ払わないと人を送れない場所」と評価しているということです。

ハードシップ手当は「大気汚染手当」ではありません

ハードシップ手当は、治安、医療、気候、言語、インフラ、隔絶度などを総合して決まる「生活環境の厳しさ」への手当で、大気汚染はその一要素です。「大気汚染に月12万円」ではなく、「大気汚染を含む環境の厳しさに月12万円」です。

それでも、同じアジアの新興国の首都で3倍の差がつく要因のうち、デリーに固有のものは限られます。治安や医療の水準はジャカルタやマニラと大きくは変わりません。差の大部分が冬の空気にあると私たちは見ています。

留学生にとっては、結局どうなのか

私たちの答え

北インドを選ぶかどうかは、ここまでの数字を知ったうえで決めてください。

私たちはデリーを「行ってはいけない場所」とは考えていません。寿命が8.2年縮むという数字は、生涯そこで暮らした場合の推計で、数週間から数か月の留学にそのまま当てはまるものではありません。大気汚染という問題以上に、デリーでなければならない熱意や意志があって選ぶ人もいます。その選択を止める理由は、この記事の数字にはありません。

留学にとっての問題は、寿命ではなく「外に出られないこと」です

留学生にとって大気汚染の最大の問題は、健康への長期的な影響よりも、滞在中に生活が止まることです。GRAPがステージ4に入ると学校はハイブリッド授業に移り、インドにいるのにリモート学習になります。外出を控えるよう言われ、移動手段も減ります。2025-26年の冬、この規制は約5か月続きました。

私たちは他の記事でも、インド留学の成果は教室の外でどれだけ行動できるかで決まると書いてきました。授業が終わってから街に出る、店で注文する、住まいで誰かと話す、週末に出かける。その全部が英語の練習です。外に出られない時期が数週間から数か月続くことは、英語学習にとって最も大きな支障になります。寿命の数字より、こちらのほうが留学には切実です。

向かない人、向く人

呼吸器の持病があり、主治医から海外渡航を控えるよう言われている方には、バンガロールでも勧めません。「インドは空気が悪いと聞いたので、少しでもリスクがあるなら行きたくない」という方も、この記事の数字を見て決めてください。バンガロールは東京の4倍です。ゼロではありません。

大気汚染のよくある質問

01短期(2〜4週間)の留学でも、寿命への影響はありますか?

AQLIの「8.2年」は、生涯にわたって同じ空気を吸い続けた場合の推計です。数週間の滞在に当てはめられる数字ではありません。ただし短期でも、デリーの冬なら喉や目の症状は出ます。バンガロールでは、私たちが見てきた範囲でそうした訴えはまれです。

02マスクは持っていくべきですか?

バンガロールなら、N95規格のマスクを数枚持っていけば十分です。現地でも買えますが、小さいサイズは手に入りにくいため、日本で用意することを勧めます。

03大気汚染の情報はどこで見られますか?

在インド日本国大使館は屋上にPM2.5の観測装置を置き、リアルタイムの数値を公開しています。都市ごとの数字は IQAir や aqicn.org のアプリで見られます。渡航前に一度、デリーとバンガロールを並べて見てみてください。

出典一覧

すべて2026年9月22日に確認。

この記事の執筆・編集: インド留学プラス

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